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2008年 05月 11日
最近、同じ時期に出産した友だちと会う機会が増えています。出産体験談を聞いていると一人一人すごいドラマがあるなーと思います。ラクなお産なんてこの世にないけれど、どうやら私のお産はかなりeasy & smoothだったようで。「お産の感想は?」と聞かれたら「大変だった」ではなく「楽しかった!」と言えるのも幸せなことです。そんな私のイギリス出産体験記・・・長いですぞ。
<陣痛~まだまだ序の口編~> 3月28日夜7時、お産のサインはいきなりの腹部激痛。ガツンと一度だけ。陣痛は規則的と聞いていたので「陣痛じゃないだろうな」と思いながら、予定日も一週間以上過ぎていたので念のため病院へ行くことにしました。 病院からは「子宮口開大3cmからを分娩とみなし入院=それ以前は自宅待機」と言われていたので「すぐに帰されるだろう」と思っていましたが、処置室でモニター観察を受けている数時間の間に15分間隔の陣痛がスタート。そして内診もないまま入院決定。この時点で TENS machine*を装着しました。 TENS machine: 手のひらサイズのコントロールボックスからつながる4つのパッドを背中に貼り付け、電気による波動を流すことで痛みの神経伝達を妨げる。体に備わっているエンドルフィン(鎮痛力)を刺激する作用もあり、陣痛初期から使用するのがポイント。私は出産予定日3週間前にレンタルしました。 29日午前、産科医&助産婦による回診。陣痛5~7分間隔。と思っていたのに、モニターで客観的に確認すると10分間隔なのが納得いかない。 助産婦の「ベッドに横になっていてもお産は進まないわ。散歩してらっしゃい」との言葉に内心「鬼~!」と叫びつつユミ夫と近所のハムステッドヒースまで散歩。新鮮な空気を吸ってリフレッシュできたけれど、痛みに耐えきれず30分で病院へ戻りました。TENS machineを握りしめヨタヨタ歩いては「うー」と立ち止まる私を、ハムステッドヒースで憩いの一時を過ごしていた方々はどう思ったのでしょう。 午後は陣中見舞いにやってきた友だちとおしゃべり三昧。陣痛の合間にガハガハ笑ってる私を見た助産婦には「まだまだお産にゃ遠いわね」と思われたに違いありません。私がいくら「痛い痛い」と訴えても「陣痛が痛い?出産って痛いものなのよ。鎮痛剤でも飲んだら?」と言われるだけ。あぁ無情。 夕方、痛みがレベルアップ。助産婦にGas & Air*の希望を出したところ、あっさりOK。 Gas & Air: 笑気ガス。マウスピースを口にあて陣痛に合わせてガスを吸う。痛みを消す作用はなく、あくまでも緩和。胎児への影響がないことから、イギリスでは多くの妊婦が陣痛の痛み逃しに使用する。人によっては副作用(吐き気)が出ることも。 Gas & Air使用のポイントは、とにかく思いっきりガスを吸い込むこと。ちょこちょこ吸うと気持ち悪くなるそうです。ガスを吸い込むと痛みが一瞬軽くなりス~っと気分がよくなります。これを陣痛が来る度に繰り返すこと10分・・・酔っ払った時のtipsyな感じと同じで、急にハイテンションになった私を見て周囲もビックリです。 夜には友だちもユミ夫も帰り、同室の妊婦さん達も誘発分娩で移動、私は病室に一人。見回りに来た別の助産婦から、Gas & Airの使用開始が早すぎる&今から使っていたら無駄に体力を消耗するのでいったんストップするよう言われました。そして、この一週間ひどい風邪でろくに眠っていなかった私の体力を心配し、医師からsleeping tabletの処方。あわせて鎮痛剤も。陣痛に鎮痛剤出すんですよ、イギリスは・・・。 痛みから気を逸らそうとDVDを観始めましたが案の定それどころじゃありませんでした。薬も効かずTENS machineの効果も感じられず、陣痛は3~4分間隔。この痛さはどこまで行ってしまうのか・・・真っ暗な病室で痛さのみに意識集中という最悪パターンになってしまいました。涙を流しながらナースコール。 助産婦が来てモニター観察10分の後、入院以来初めての内診がありました。「あらーよくがんばったわね。あと少しで赤ちゃんに会えるわよ。LDRに移動しましょう。自分でご主人に電話できる?」と言われ、夫に電話。Gas & Airを気が狂ったように吸い続けても痛い(当たり前)。車椅子でLDR*へ。 LDR: 陣痛→出産→出産後の回復期を移動せず過ごせる個室。私が出産した病院では、Labour Ward(産科)に5室、 Birth Centreに5室。Epidural(硬膜外麻酔)希望者や妊娠経過に問題・不安がある妊婦さんなど医療行為が必要になると思われる場合にはLabour Ward、メディカルヘルプなしの自然分娩を希望する人はBirth Centreで出産。 <陣痛~そろそろお産編~> LDRの広い部屋に入って真っ先に目についたのが天井から吊り下がるハンモック状の布きれとバランスボール。Birth Centre*の部屋みたい、と一瞬思ったものの深く考える余裕もなくバランスボールにダッシュ。 バランスボールに乗りながらGas & Airを吸い続けることで、何とか陣痛を乗り切れている感じです。(写真は病院ホームページより) Birth Centre: 自然分娩を希望する人向け。医療行為を行わず助産婦のみ係わる(医師なし)。ここのLDRには痛み逃しのためのバランスボールやハンモック、大きめの浴槽があり、部屋の照明を暗くしたり自分スタイルのお産ができる。私はEpidural希望だったので、Labour Ward(産科)に行きたかったのだけれど・・・。 しばらくして助産婦Mさん登場。挨拶されるも言葉を返す余裕はなく、ボールの上でバウンスして「Epidural*(硬膜外麻酔)はまだ?」と聞くのが精いっぱいでした。「Epiduralを使うのはいいけれど、せっかくBirth Centreでバスタブも広いし、まずhot bathを試してみない?」と言われ、やっぱりBirth Centreにいるのか!とがっかり。Labour Wardを希望してたのに、緊急手術や分娩が重なってLabour Wardは満員御礼状態のようです。 Epidural(硬膜外麻酔): 麻酔医による処置要。背中に管状の針を刺し、中に通した細いチューブに麻酔薬が注入されると、子宮からの痛みを伝える神経が麻痺する。痛みは緩和もしくは無痛となるものの、陣痛が圧迫感として感じられるので息むこともでき、体力の消耗を防ぐことから産後の回復が早いという利点がある。ただし、痛みを感じなくなることで分娩そのものの時間が長引くケースあり。使用中は急激に血圧が下がることがあるため、予め母体に点滴をセットし、定期的に血圧測定・観察をしながら分娩となる。排尿のため導尿カテーテルを通されることが多い。 「Hot bathなんかいらない。今すぐEpidural!」と叫んだところでユミ夫登場。Mさんからしつこくhot bathをすすめられ不機嫌極まりない私。「産科で無痛分娩」というバースプランを立てていたのに、なぜに「バースセンターで自然分娩」になってしまうわけ?今となっては何を言ったかよく覚えていないのですが、助産婦相手に相当壊れた英語でブチ切れていました。 午前2時頃、点滴準備開始。Epiduralをするには必要な処置です。そして助産婦の「緊急手術で麻酔医の手が空かないから、あと少し待って。終わり次第すぐに来るから」という言葉。その時の産科の混み具合、麻酔医のavailabilityによって待ち時間に差があるのは分かっていたけど、一体あと何時間待てばいいのか・・・この頃、ユミ夫が私の腰をマッサージしてくれていたけれど、ツボが外れていたようで「全然ちがーう!」と力任せにパンチ。(本人記憶なし。後の助産婦談) 待っている間に病院のガウンに着替えバランスボールからベッドに移動、TENS machineはお役御免です(Epiduralの前に外さなければならない)。Gas & Air吸いまくりで意識が朦朧としている中、明け方近く麻酔医登場。後光が射して見えちゃった。Epiduralの処置は予想以上の痛さで、私は助産婦と夫に羽交い締めにされ、麻酔医に「DO NOT MOVE!」と怒鳴られながら処置を受けました。風邪で喉が痛かったのに、どこからそんな大きな声が出るのだ?!という音量+超ハスキーな声で絶叫。(この処置、すべての人が激痛を感じるわけではなく、「全然痛くなかった」という人もいます。)Epidural注入とともに点滴が始まり、助産婦が血圧をモニターし始めました。Epiduralの威力は素晴らしく、徐々に陣痛の「痛み」が緩和され体の緊張が解けていきます。麻酔が入っていても歩くことはできトイレへも行けるのですが、腰から下の感覚が麻痺しているので導尿カテーテルをつけられました。 出産の時は驚くほど汗をかき喉が渇くもので、絶え間なく水分補給。窓の外を見るともうすっかり明るく、朝を迎えたロンドン。ユミ夫は助産婦とおしゃべりし、私はウトウト。いったんEpiduralが入ったら、後は分娩終盤まで「待ち」です。麻酔で何の感覚もないかと言うとそんなことはなく、内側からグーッと押すような圧迫感はハッキリ感じます。 午前8時、お産を進めるために人工破水。それから空き部屋の出たLabour WardのLDRに移動しました。 <分娩~いよいよご対面~> Labour Wardに移って間もなく、別の助産婦Sさんが私の担当として引き継ぎ。Epiduralを使っているということは陣痛の痛みが緩和されていきみがうまくいかないことがあり、鉗子分娩や吸引分娩の確率が上がる=医師介入の可能性が出てくるので、ここで医師2人による今後の流れについて説明がありました。2時間たって進展がなければその時点でOther optionsを考えます、との言葉。2時間の猶予。それが過ぎると、会陰切開→吸引分娩か帝王切開か・・・。助産婦の手を離れ医師が係わることになります。ちなみにこの病院、帝王切開率が全分娩の30%!でイングランドでも群を抜いて高いのです。 助産婦から「眠れるうちに眠って体力をつけておきましょう」と言われたけれど、Sleeping tabletが効いてきたのか何なのか、眠くてたまりません。(分娩中に眠たくなる妊婦さん、けっこういるらしいです)なのに、売店でコーヒーとパン・オ・ショコラを買って戻ってきたユミ夫を見て、眠気より食い気のワタシが見事に復活。助産婦に「食べてもいい?!」と聞いたら、「ダメダメ。赤ちゃん生まれたら好きなだけ食べさせてあげるから」と笑って却下されました。再びウトウト。Epiduralを使っていると、こんな感じで気持ちに余裕も持てるし体力の消耗も少なくてすみます。産後1泊で退院するのがフツウのイギリス、体力温存はその後の生活のためにも重要なポイントです。 何度かEpiduralを追加していたにも関わらず(top-upは何回でもできます)、午前10時を過ぎ、重たいような痛いような感覚。助産婦に「そろそろpush(=いきむ)してみましょう」と言われました。でもpushと言われてもなかなか難しく、11時を過ぎてもあと少しのことろで赤ちゃんが出てこない。そして助産婦から「あと2回pushしてダメだったら会陰切開します」の言葉。ゲゲッ。ヨガでエクササイズしてきたのが無駄になってしまうではないか・・・。ここから(今さら)、俄然やる気に。 そして、午前11時23分。 Pushを止めて!という助産婦の声を聞いた直後にヌルリという感覚。立会いのユミ夫が涙を拭うのが見え、それで「あぁ、生まれた」とわかりました。数秒して短く元気な産声。性別は生まれるまでのお楽しみでしたが、予想どおり女の子。へその緒は夫が切りました。 まだ紫色でプルプルと震える赤ちゃんが私の胸元へ。泣いているうちにみるみる真っ赤になる小さな人。すごいなー、この人が9ヶ月も自分の中にいたなんて。しっかりと赤ちゃんを見たいのに、どういうわけか左目が沁みるように痛くて開きません。抱っこもままならず「カンガルーケア、夫にお願いします」と言うと、助産婦が「お父さん、服脱いで!はい、赤ちゃん抱っこして!」と、ものすごいスピードで赤ちゃんを夫の胸元へ。私は後産をスムースにするための注射を打たれ、赤ちゃんにはビタミンKを注射してもらいました。(注射か経口か選べます。経口は吐いてしまう赤ちゃんが多いと聞いたので注射を選択) 名前は前から候補にあがっていたもので、生後5分経たずに即決。 午前11時30分、胎盤の出る後産が済んで無事分娩終了。首を長くして吉報を待っていた日本の両親に携帯から電話しました。父に「生まれたよ」と短く伝えると「生まれた?生まれた?」と電話口で涙声に。父の泣く声なんて聞いたことがなかった上、背後で母が泣き出す様子も伝わってきて、私もナミダ。 <産後~あっという間にback to normal~> 午後12時、ミニユミのチェックと私の後処置も終わったところで、Sさんがトーストと紅茶を持ってきてくれました。もちろん夫の分も楽勝でいただき!産後2時間はLDRで家族3人水入らずの時を過ごすのですが、じーっと赤ちゃんを見ているだけであっという間に時が過ぎていきます。 午後2時、助産婦Sさん再登場。「麻酔も切れた頃だし、あなたがシャワーしたければ手伝うわ」とLDR内のシャワールームへ。出産後すぐのシャワーなんてとんでもない!と思っていたのに、実際には「待―ってましたっ!」と嬉しかったです。分娩中はものすごく汗をかき、LDRでは常にエビアン(顔にスプレーするもの)を使っていたのですが、シャワーを浴びたくて仕方ありませんでした。 シャワー後、車椅子で入院病棟へ。ベッド横には生まれたてのミニユミがコットですやすやと眠り、私が眠るはずのベッドではユミ夫が気絶したように爆睡。私はと言うと、廊下を散歩したり先に出産入院していたヨガ友の病室へ行ったり元気いっぱい。夕飯もモリモリいただきました。産科病棟は基本的に相部屋でパートナーの宿泊は不可。午後8時、夫帰宅。(帰って友だちと飲みに行ったらしい) ミニユミ生まれて初めての夜は新米母の私はとても心細く、泣き続けるミニユミを抱いてナースステーション周辺を行ったり来たり。見かけた助産婦さんが「その泣き方はお腹すいてるのよー」とベッドに一緒に戻って、母乳指導をしてくれました。この夜は結局一睡もできず、ミニユミがちゃんと息をしてるだろーか・・・と何度も何度も確かめているうちに朝を迎えました。 翌朝ユミ夫が来るのを待って、私は病室のバスルームでシャワー。シャワーを浴びている間に麻酔医が産後診察で私のベッドを訪れたそうですが、「え?シャワーを浴びてる?じゃ、全然心配ないね」とユミ夫に言い残し、私の診察は結局なし。Epiduralでは足が重く感じられたり腰痛などの副作用が出ることもあるのですが、私は大丈夫でした。会陰切開がなかったからか産後に「痛み」を感じることが全くと言っていいほどなく、同じ病室の人たちからも「きのう出産した人には見えない」と言われるほど元気でした。 そんなわけで、私もイギリススタンダードに則って出産翌日退院。赤ちゃん用カーシートにミニユミを乗せ、カーシートの取っ手を持って、まさに「赤ちゃんお持ち帰り」の感覚で退院。病棟のエレベータで「How old?」と周りの人たちに聞かれたのですが「One day」と言ったところで誰も驚かないのがイギリスらしかったです。 お産のサインから分娩終了まで40時間(実際の分娩時間は約11時間)。産後30時間で帰宅し、家族3人での新生活がスタートしました。イギリスNHSでの出産は不安なこともたくさんありましたが、終わってみれば、楽しい&嬉しい、そして私らしいお産ができたと大満足です。
by london_note
| 2008-05-11 11:30
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